引用するだけ日記

まあ、新興宗教が気の弱い学生を巻き込む時の常套手段である。

 だが、その後の言葉が違った。「家ではみんなでご飯を食べるんです。みんなで一緒に食卓を囲むなんて、とても素晴らしいことって思いませんか」

 私はこの言葉にショックを受けた。私の育った家庭は、円満にして満点というわけではなかったが、それでも家族が揃って食卓を囲むのは当たり前であった。私はそれを素晴らしいことと思っていなかった。家族の食卓は、当然あるべきものだった。

 「一緒に食卓を囲む」ことを「幸福である」と語る彼女の背後に、なにか尋常ならざる不幸の気配を感じた。触れてはならぬものに触れてしまったという後悔が背筋を走り抜けた。

 私は二度と彼女に会うことはなかった。そして、その手の人をからかうのもやめた。